2012年5月7日月曜日

我が心のタオルミナ

まるでうそみたいに完璧な景色だった

『わたしの名前はスーザン・ラパグリア。
生まれも育ちもブルックリンの68歳。現在はロングアイランドのミネオラに車のセールス業を退職した同じくシチリア系の主人と二人暮らし。息子二人はそれぞれ弁護士、投資銀行家として成功してマンハッタンでバリバリ働いています。
今回生まれて初めて祖父母の故郷であるシシリーにやってきました。

合衆国にありながらブルックリンのベンソンハーストというシチリアの伝統をそのまま持ち込んだような場所で育ったあたしは若い頃からそこにある重苦しい因習に反発するように生きてきました。ゴッドファーザーの愛のテーマなんてラジオで流れようもんなら即消してたわ。マフィアだのなまけものだの、シチリア移民ってだけで心ないことを言われてイヤな思いもたくさんしました。
自分の中のイタリアやシチリアを否定するように生きて来たからこの年までこのシチリアを訪れなかったんだと思います。
いや、本当は自分の中のシチリアの血に目覚めてしまうのが怖かったからかもしれないわね。
とにかく若い頃はアメリカに「同化」しようと必死だったからあたしが30代になるまで生きていた祖父母からシチリアの話、移民して来た時の話すら聞いたことがなかったの。ただ移民してきてちょっと小金を稼いだらシチリアに帰るつもりだったのにそうこうしているうちに世界大戦が始まってイタリアとアメリカが敵国になってしまったからついぞ帰るタイミングを逃してしまった、みたいな話はうっすらと聞いていたわ。祖父母は結局シチリアに一度も帰ることなく天に召されました。「いまさら帰ったところで知ってる人が生きてて私達を出迎えてくれるわけじゃない」が祖父の口癖だったわね。

祖母が亡くなる前に「タオルミナへ行きなさい。あたしは死んだらタオルミナに、あのイオニアの海に帰るんだよ。ベッペもチーチョもジーノもみんないなくなったけどその魂はタオルミナに帰ったのよ。スザンナ、あんたは生きてるうちに行きなさいね。」とうわごとでしきりに言っていました。

それから子育てやら主人のビジネスの手伝いやらで泣いたり笑ったりてんやわんやのまま30余年があっという間に経ってしまいました。

今回、成功した息子達がお金を出してくれて、なんとビジネスクラスなんていうのに乗って主人と一緒にこのシチリアまでやってきたの。あそこまで背中を押されたんじゃ断れないわねぇ。12時間の長旅でしたが祖父母が辿ったタオルミナーナポリージェノヴァーニューヨークの行程に比べたらなんて便利な世の中になったんでしょう。

そして今こうやってタオルミナの古代ギリシャ劇場から紺碧のイオニア海を眺めて一瞬にして全てを悟りました。
祖父母が貧困の為に後にせざるをえなかったこの景色、彼らの両親と祖父母との永遠の別れ、そのえぐられるような気持ちとそれに絡まるようにしてある新天地に対する甘美な希望。
そしてわたしは自分の中にまぎれもなく流れるシチリアの血の熱さまでも知ってしまったのです。

死ぬまでにこの景色が見れたこと、サンタ・マリアに感謝します。
そして100年前とまったく変わらない景色をとどめておいてくれたことにも。
多分あたしはニューヨークで死ぬのだろうけど、きっと死ぬ前にここで見た噴煙たちこめるエトナと絵の具を流したように碧いこのイオニアの海を思い出すんだわね。
そして、魂は祖父母や両親がいるここに帰依するんだわ。
あぁ、そうだわ。この景色、毎日機械みたいに働いて自分たちは完全にアメリカ人だと思ってる息子達や孫達にも見るように言わないといけないわね(笑)。幸せはお金で買えると思ってるふしがあるのよ、あの子達。

どうしたのかしら。涙が滝のようにこぼれてきて前が見えないわ。

シチリアの血は引いていなくても、この景色を見て泣かない人はいないと思いますけどね。あなたも愛している人にこの景色を見せてあげるといいわね。』


完全フィクションです(汗)。
でもシシリアンーニューヨーカーの初老の団体が円形劇場にいらっしゃっいました(タオルミナはアメリカ人の団体客がすごいの)
その中の一人が「この景色をグランパやグランマは知ってるのね!ダディやマミーにも見せたかった。まさにこの世の天国ね!こんな綺麗なところ見たことないわ。」としきりにキツいニューヨークアクセントで廻りの人に言いながら泣いていらっしゃいました。
それから構想して勝手にこの話作ってみたんだけど、当たらずとも遠からずではないかしら。
あたしも思わずもらい泣きしてしまいました。アメリカ人のおさーんが聞いてたら号泣してたでしょう。あー、一人で良かった(爆)。
いや、でもまさかこんなところで泣くとは、お釈迦さまも予期してなかったわー。

シチリアに行ったら絶対にタオルミナに行くべきと言ってくださったツイッターのお友達とジョヴァンニに心から感謝します♡

ちなみにこのタオルミナの小さな街は1世紀も前から周辺の村々の貧しさにも関わらずドイツ人やイギリス人のお金持ちや芸術家の保養地として有名だったそうです。今でもカプリ島やポジターノと並んで南イタリア有数の高級リゾートとして世界のセレブリティの往来がたえません。
映画「グラン・ブルー」や「太陽がいっぱい」はここで撮影されました。

0 件のコメント: